2018年12月28日金曜日

過去の短歌 アロンアルファは


青と黒言葉を投げる狭い部屋絡んだ前髪視界をふさぐ

石鹸の百合の花匂い甘だるく白いまぶたをなぞって彼岸

我々を冷たく照らす蛍光灯アロンアルファは神の手に有る

君が為惜しからざりし緑色クリームソーダのアイスを溶かす

新しいエナメルの靴履いた朝私は無敵だ雨よ降れ降れ

梅雨晴れ間集合団地の蒲団干し小学生の歯並びに似て

さおだけを売る甘い声鳴らしつつ車の主は煙草を吸って

新しいおもちゃを乞えば舌を出す犬の振りした快適生活

女には花を贈れば喜ぶと思い込んでる男が嫌い

生きている価値見つけずに過ごすまま意味なく口にレゾンデートル

2018年12月14日金曜日

過去の短歌 こたつむりさん

ゴム手して「オペを始める」言えばきみ「しぇんちぇえ」ピノコの真似をするから

例えばの話をしては滑り行く淡い輪郭曜日のすきま

絶対の信仰に似た恋人は私に五月刻んで行って

ふしだらな言葉で檻を作り出し少女は爪を噛み続けてる

イチゴ味これはある種の呪いなの歪んで笑うかわいいお口

イエティがいない方には賭けるけどあなたのことを好きにはならない

波動拳繰り返してもお湯が沸くわけじゃないのよこたつむりさん

楽観の権化のような人といて憂鬱とかに甘えてみたい

思春期はピンクの竜の尾に付けて後悔とともに飛ばせてやろう

深海にゆったり沈んでいけたらねたぶん憎悪も愛せるだろう

2018年11月30日金曜日

2018年8月くらいの短歌 満願成就

八月の金曜最後なのだから名残の桃を買えばよかった
 
塗りたてのペンキの匂い夜が来て私のためのあなたを探す

すぼめると蕾のようなその口で満願成就の呪いを吐いて

嘘つきを積み重ねてやるジェンガだろう望めば全部崩してやろう

お互いに足りぬ過剰を持ち過ぎて傷になってるような歯車

湿りゆく布団の中で考える極楽地獄あわよくば、きみ

毎朝のパンの焼き色愚かしく愛おしいから生きてゆけるか

朝方のかわいい悪夢ことさらに一人であると突き付けている

過ぎていく花を全部を泥にするそれで一緒にいられるならば

青色に透けるキュラソーゼリーにて思い出補正に後悔を焼く

縦列に隊なす南極ペンギンの何番目かに化ける情動

伝説をとろかすほどの熱を持つ今日は全部を終わらしてやる

2018年10月5日金曜日

2018年7月くらいの短歌 五枚切り

死にかけの蝉なみの生を駆け抜ける夜スニーカー鳴らす蛍光

人並みに生きる力を手に入れるコーヒーだけで眠れない夜

心臓の中に小さな海がありきれいな貝を見つけたりする

月曜を乗り切ったのでスーパーで3割引の鮨詰めを買う

夏が濃く例えば誰かのためになら消えちゃうなんて言えちゃう人ら

夏の日の夕方に食む西瓜ごと私を愛してくれぬか否か

無邪気さで付け入る隙をこじ開ける優しさずるさそういう酷さ

まっとうに恋とか愛をしてみても安全剃刀状の不安を

人生はまだまだ続く五枚切りパンの最後を頬張りながら

道端のガム、犬の糞、吐瀉物に更に加えて私の嗚咽

夢ならば口中で噛むガムみたく膨らませて割るそういう仕分け

天国は片手で数えるだけのこと濁った気持ち巻き添えにして

嫌なこと辛いこと怖いこと全部もっと過激なやり方で消す

2018年9月14日金曜日

2018年6月くらいの短歌(2) だらしない

心ならどうにでもなるそんな日に火を点けて燃やすだらしない首

怖いなら自分が更に恐ろしい何かになれば溶かせる呪い

だいじょうぶ、夜はどこでも平等に誰の上にも訪れるので

台風のふうふうだけで飛んでいく夜はまばらに消える花たち

脳みそに降り始めた雨止まなくて傘すら持てぬそういう夜更け

尊敬も遠慮も全部いらなくて剥き出しをみたい子供みたいに

肉体が衰えることは知っていてにも関わらず心の皮肉

2018年6月くらいの短歌(1) ただの他人

薄情に掌を振る人もいる私のための選択肢あれ

どうかして血中濃度の濃い日々を倒れずにやるエモい人々

朝でなく夜であることを証明セヨただ低い位置のぼやけた満月

ベランダで夜の呼吸を聞いている。猫、女、雨、風、車、白

時間差で聞いてくるのか劇薬は夜の言葉で朝がかなしい

ごめんねの言い方ひとつ知らないでただの他人と暮らす淋しさ

どうせなら結婚式も葬式も生まれた時もあなたが見たい

自らが幸せじゃなくて浅ましく願う他人の不幸せごと

2018年9月7日金曜日

2018年5月くらいの短歌 雪柳みたい

人生はだれかの犠牲になるよりも崇め奉られる方がたのしい

去り際に交わす目を伏せ淋しさをそんな余韻で言わないでくれ

雨が降る俺と一緒に死ねないか知らない人のささやきの声

人は皆いつか死ぬ事実それだけを糧に予定を黒く塗り消す

祈るなら百万回でもやらかせよ許す自分が好きな神だけ

終わらせる理由ほしくて吐く嘘は重くて白くて雪柳みたい

生きている資格ほしくて持つ物を生き直したくて捨てる毎日

魂が出あえ出あえとうるさくて葉物野菜を千切りにする

駅に咲くポスターの肌きらきらと猫背の人のうなじに挿さる

電線に引っかかるだけ低い月やましさだけが肥大している

2018年8月31日金曜日

2018年4月くらいの短歌 和菓子のように

空に花舞い散って去る人たちへいつも吐くような嘘を吐いてよ

労働者階級らしく週末に強いもの全部脱ぎ捨てている

愛用のシャチハタを押す枠の中今日はほんのり右上を向く

解せればなんてことはないこの無精ひとり静かに飲む酒の味

英雄であろうあなたは雲に乗り雨で涙を台無しにした

海だって山だって行ける金銭が財布にあってくたびれていく

花が咲くできれば春の真ん中でできれば愚かな一人でいたい

せんそう、と和菓子のようにアナウンス舌に転がる小さな叫び

2018年8月17日金曜日

2018年3月くらいの短歌 ミックスフィリア

いつだつてマイナスからのスタートで加点方式でも生きるだけ

災いと見透かされてて幸せだ良いことだらけでノートを埋めて

壁のシミ日付の数字意味持たす無駄な君らと私の時間

道端の分かりやすさのち生きやすさ半袖ちらちらのぞく二の腕

もう足りているはずなのに靴が欲しい宇宙も地獄も走っていける

声帯を持った原始の生物か類する野蛮、好きって言えよ

美しい酒の瓶種類並べ立て溺れるスペシャルミックスフィリア

雨に差す傘の角度が違うので至る世界も異なっている

偽りの正義なんぞを語るきみ、干したシーツはまだ湿っぽい

使わなくなった指貫嵌めてみて針の跡昭和九十三年

良い酒と花と手紙と転がって終わったことを噛み締めている

リノリウム床で裸足はまだ寒く頭痛のような夏を待ってる

2018年8月3日金曜日

過去の短歌 お手手繋ごう

田町では素性の分からぬ人が乗る(わたくしもまたそのひとりであり)

淋しさは発情中の猫を呼ぶだれかどうにか私を抱いて

歪むのは正しい形があるからで松葉の香り直線の君

不特定多数という名の私達転んでしまったカラフルな街

むっちりと脂肪の波を越えてって真夜中の月滑り落ちる溝

奪い合い憎しみ合ってこんなにもカスタードプリン玉子の匂い

あいうえおかきくけ殺したクックロビンさしすせそしたらお手手繋ごう

過去形に自然に出来ていっぱしにひとりよがりの愛情終わり

砂糖菓子みたいな乙女黒ペンキ浴びせて笑え非情な季節

男より女のボリューム引き上げて目尻が踊り肉の稜線

2018年4月20日金曜日

2018年2月くらいの短歌(2) ミモザばかりの

暗がりの中で君の手しらじらと光って踊るそういう夜更け

透明のマニキュア塗って乾くまで原始両生類の顔して

替え芯を買えば幾多の文字たちが小鳥になって飛び立っていく

死ぬのなら怖くはないよそんなことミモザばかりの花屋の前で

選ぶなら玉虫色の夢でなく鮮血みたいな結末がいい

自己否定肯定他人を愛せども然るべきとき追い風が吹く

暗闇でDICコードを読むように意味のないこと追い詰める目に

大丈夫、もう平気だと泣きながら持ってもいないぬいぐるみ抱く

2018年4月13日金曜日

2018年2月くらいの短歌(1) 石塔

人間に向く向かないは置いといて文旦の皮突き通す指

げ、ん、じ、つ、とあんたは言うが目の前で夢みたいなことひたすら言って

何がしか運命だとかまじないを信じられるほど可愛くはない

愛される花のすべてをへし折って深爪だらけの君に渡そう

引き鉄を引く指曲げて口当てる罵倒聞こえぬふりをしている

眠れない夜に数える角砂糖紅茶に混ぜて忘れろ全部

石塔をハンマーで折る、いつだって自傷みたいな恋をしている

酷いこと悲しいことに耐え切れずハッピーエンドの矯正をする

生きている実感やたら欲しくって肺に冷たい空気を入れた

大人だし口先で甘い言葉吐く腹の中身はぐちゃぐちゃにして

まっすぐな形憧れ弧を描き落ちても正しい矢印のまま

2018年4月6日金曜日

2018年1月くらいの短歌 人生讃えて飲むための

真夜中は負に傾いて雪が降る明日は私の可燃ゴミの日

手を出してはいけない。これは気分良く人生讃えて飲むための酒。

指十本折って数えるだけのこと恋や金でも道のゲロでも

ラムコークまみれの夜を通過した二人の夜を加速する雪

銀色の鱗光らせスーパーの冷気で乾く魚たちの目

水をやり餌を与えて傍にいる手酷くいつか奪われるまで

瓶の中熟れてく酒に溶けていく氷砂糖のような優しさ

青空にそびえる冬のプラタナス正しいだけの一人でいたい

贅沢をしようかひとり真夜中にコーヒーのなか落ちていくラム

穏やかに淋しく思う飼い猫の陽に透けていた銀色の髭

2018年3月16日金曜日

2017年冬くらいの短歌(2) 免罪符とか

死にかけの息切れのように鳴く蝉へなりそうになる塞いでる夜

駅ホーム目的地からその先に向かう電車はゆりかごのよう

ホットココアにバターを入れる暴力を覚えてしまい冬が愛しい

性欲と恋愛の違い説くよりも組み伏す腕の重さが痛い

感情に名前が無くて飢えていて免罪符とかどうでもいいし

おおおんと鳴く深海の魚たち人もたまには鳴くと良いのだ

馬鹿だねと口を歪めて言うせいでどうやら卒倒しそうに甘い

魔法陣ひいて召喚してみたが役に立たない悪魔みたいだ

靴下は温かいより邪魔だから裸足でいたいと女神は言った

本日は午前絶望午後まれに希望そののち憔悴でしょう

2018年3月9日金曜日

2017年冬くらいの短歌(1) 承認欲求は

青色に燃えて承認欲求は小さく馬鹿と答えて消えた

かなしいと言葉に出して感情の重さを測る冷たい目盛り

苗字も名前も国も捨ててみて幸福なんかを求めてみたい

影を踏む日なた植木の葉が揺れて一番負けがつきまとう日々

ざんこくな気持ち吹雪いて加速してみんな私を追い越していく

尊くもない若さだけ過ぎていき楽しさだけが余計に残る

眠れない人の光は薄暗く朝になるまで冷える回廊

気が付くと傷だらけになる手足まで大事だなんて自己主張して

化膿した傷に軟膏塗り込んで小さく生きる約束をする

味の無いつらら折り舐める帰り道どうにか一人どこへでも行く

2018年3月2日金曜日

2017年秋くらいの短歌(2) 革命闘志

肯定も否定も水から煮立たせて食べたらやわい鍋になるだろ

恋文か遺書にもなれる便箋に拝啓、あなたへ手紙を書くよ

死にに行く猫の道筋一人行く出来れば虎の歩幅で行こう

輪郭の甘い誰かを見つけ出す昼間に上がる花火みたいに

肯定も差異も全部は許せない油性マジック塗り潰す黒

君が呼ぶ私の名前のようなものこの世で一番きれいな響き

モチーフとして滅ぶ傷痍軍人にダムに沈む村、革命闘士

どうしようもない夜が来て朝が来てどうにかできるだけの毎日

好きになる人がたくさん出来たから来世で自慢できるねきっと

淋しいと口に出せたら幸せで冷蔵庫にでもしまう後先

2018年2月23日金曜日

2017年秋くらいの短歌(1) 夜更けのコーラ

暖房の効かない部屋と詩を読んで頬をゆっくり撫でる静寂

もう二度と会えない人に教わった言葉聞くたびうすらさびしい

出来るだけ忘れずにいてほしいから悪い思い出ばっかり作る

単純な日々言葉たちことことに煮え立つジャムの湯気で曇って

淋しいと言葉に出して繰り返すドミノ倒し今日明日その先

ショーウィンドー越しに眺める人々へいろんな不幸背負わせてみる

抽斗の多くないこと一人きり得意になれず夜更けのコーラ

謝罪ってそれも残酷すぎるだろうそうして削除される私は

吹き荒れる嵐に慣れて左手のささくればかり気にして彼岸

繰り返すことに毎回吐き気してさびしくなってまた繰り返す

2018年2月16日金曜日

2017年夏くらいの短歌 喧嘩をしない

一人には多すぎるお湯沸かしては捨てるそういう小さな呪い

社会人として言葉にできないと無意味と知っているがさびしい

雨が降る夜の水気で失意とか失望なんかを膨らませてく

性的の意味は知らない人の喉しろいそれから鮮やかな影

夕立は罪悪感を強くするいつか私を連れてってくれ

大人だし知らない温度の人たちと喧嘩をしないしませんしない

国道をまだら染めてく雨の跡わたしの価値はわたしが決める

お別れの時に誰もが意図せずに呪う幸せ限定として

酷すぎる孤独ひとこと純粋に一人の人と通じ合うこと

緩慢な自殺だというその紫煙わたしより先に死なないでほしい