2017年3月31日金曜日

2017年2月の短歌(2) 虫の名前

借りてきた猫の手届く範囲さえ流しの下に潜む爆弾

慈しみ優しさ丸い気持ちたち箱詰めにして潰す習性

距離感は恋とか愛の境目かあるいは孤独、都合だけなら #短詩の風

さみしいか言葉よ言葉貪欲に外階段の段差を鳴らす

年取って死ぬの分かっているんだし濃縮還元してよ人生

悲しみや淋しさほどに激しくもない関係を終わらせている

ああ下弦月よ私の生活を身損ねてまで小さくなるか

好きだった虫の名前ももう言えずそのうち破裂するのだきみは

ほおずきの実鳴らす音をきしませて心に早く熱をください

降りもしない知らぬ人々住む駅に乱反射するパチ屋の明かり

非力でも死ぬ気で殴れば痛いのと弱ぶるように見せる暴力

正解がわからないから逃げ出すかそんな弱さを許してくれよ

2017年3月24日金曜日

煙草短歌連作「ヒンジリッド」

2015年3月ころ、SNSのTwitter上で、風橋平さんがまとめてくださり、
煙草をモチーフにした短歌アンソロジー「喫煙室」に参加しました。
当時の作品をこちらにも掲載いたします。

改めて、参加・取りまとめ頂いたことに感謝いたします。
たくさんの歌人が参加されていて、とても楽しいネットプリントでした。

「ヒンジリッド」

勇猛な少年期白く終わらせる震える指でくゆらす煙草

灰色に染まる空へと吹く煙わたし立派にクズをやれてる

腹の中飼ってる自由な被虐心うちら陽気なチムチムチェリー

我々の口から安易に出る紫煙死んでしまえとすべては呪う

形ある神に名前をつけてやる甘いガラムの火花を散らし

唇が淋しいのまま凝固して誰かの代わり求めるけむり

緩やかに滑落しては笑い出す、しゃれこうべ、それ、黄金バット

最後から数えてみてはバニラ味ほかの誰かのせいにしてみる

2017年3月17日金曜日

2017年2月の短歌(1) 春来やがれ

身体ならまだ痛みなんて感じるし生きてるだけの孤独中毒

整備さるる台所ゆえ立つ人の影おぞましき恋人の家

さみしいね冷凍の海老背わた抜く指の温度を奪って消える

安直な心理テストによりますとどうやらとっても不幸らしいよ

三枚におろしたはずの青魚ゴミ箱から目を光らして今

呪いって口に出したらダメってねあなたが好きだあなたが好きだ

早く春来やがれ花壇にいっぱいに紫黄色パンジー咲かせ

潮騒の音に他人の心音に馬鹿らしいほど安らいでいる

餌を得て喜ぶ舌見せ犬の日々尊厳だとか差異とは何か

後悔をさせてほしいよ猫背から骨張った手足震わせてさえ

壁薄く隣の人の生活にはみ出るような二人の時間

ねえ誰か呼んでみたくもなるような雪の向こうは何も見えない

2017年3月10日金曜日

テーマ「道」 うたらば第107回

たらばさんで、「道」というテーマで短歌募集をされていました。
採用歌で気になったものをご紹介。

歩道橋登れば無敵みたいだな信号の列をはるばると見る
(長月優さん)

間違ひに気づかないままどこまでも菜の花色の電車でゆかう
(有村桔梗さん)

時節柄、春を感じさせる短歌が多く感じられましたね。

夜の一本道の道路、虫の目みたいに光る信号機とか、
歩道橋の上の無敵感、すごいよくわかる。

身近な菜の花色って言ったら、西武新宿線の車両で
行き先を間違えても、まあいいや、行ってみよ、っていう
大らかさ、なんて愛するしかないだろう。

日常や感情を切り取って共感をさせる歌は強い。そして好きだ。
真摯なことを見ていると幸福である。

自分は下記を投稿。

道に吐く唾は汚く飛び散った冬は間も無く誰にでも来る

撃鉄を起こせ我等を阻むもの蹴散らせ行けよ葉桜の道

道に咲く花々吐瀉物たかる鳩わたしの願いは生きていくこと