2016年12月23日金曜日

2016年11月の短歌 トゲトゲの傷跡

靴跡の残る雪みち泥を避け尽くしたところで言葉は足りぬ

心臓の話をしてよトゲトゲの傷跡、刺青、プールの話

人々に見下されるのは慣れている安全位置と知っているもの

もう今日は酷い事しかしたくないラーメンライス餃子を追加

生活の方位磁石が壊れてる一人始発で向かう江ノ島

手の届く範囲で終わる戦いで血を流すためささくれを剥く

愚かかつ馬鹿にもなってしまったら見捨てて貰える期待をさせて

電柱が人間に見え月が見え夜はどんどん傾いていく

薄氷の上に成り立つ平和ってどんなものだか教えてくれよ

地球外生命体と接触す我レ只今ヨリ恋ニ落チタリ

三日月を撃ちつらぬいて落ちてくる僕のポッケのビスケットたち

結局は他人洗濯物たたむ回数なんて数えながらも

冷え過ぎた指、膝、過去の楽しみは電子レンジでチンをするのだ

幸せになれよ出来れば片耳のピアスだけ失くす呪いにかかれ

2016年12月16日金曜日

2016年10月の短歌(3) びらびら揺れる

会話劇メトロノームの頷きを飽きて煙草に火をつけドレミ

乱暴でいたいと思う脆弱な心を誰にも見せないように

自分とは違う、だからね本当の生殺与奪とかを知らない

人肌のほどと調理の指示があり要らぬさびしさ思い出させる

拒絶ならざらざらした目で示してる飢えているのは一人ではない

あ、やばい、淋しい寒い、ポケットに突っ込む手指の爪は割れてる

おもちゃ箱ひっくり返し床にいる自分も何も混ざり合うから

他の人の物差し幅に余り過ぎびらびら揺れる自由な手足

充血の無い白目黒目境い目に反射して映る馬鹿な私を

淋しいか、否、悲しいか、否、々、々、自分の溶ける場所を欲する

優しいと好きは違うと知ってるし泣いているのはただの病気だ

お綺麗な立場の人を汚したく反抗的に吐くクソくらえ

浅ましい共犯者の目青白くいつまで待てばさびしくないの

2016年12月9日金曜日

2016年10月の短歌(2) 履歴を消して

瞳孔の開き見てたらもう夜で気持ち全部もずさんでいいよ

万物の流転解脱や諸々の垣間にあなたがいるのが嫌だ

大人でも終わりの定義が分からない尊いものを分け合いながら

大小の肉体美観ゆるゆると価値観愛を露呈し尽くせ

白シャツの襟首汚れ生きているあんたが残した履歴を消して

言葉すらどうしようもなく吐き出せず、かみさま、なんて口にしてみる

君宛てにねだる言葉を吐けるなら泡になっても良いと思った

寿命って上手い事言うそんなにも愛でたき事に尽くす命を

コンピュータグラフィックス的完璧な日を容器の中うかがっている

蜂蜜にピーナッツバターあんずジャム過剰悪趣味あなたが好きだ

ゆきずりの町で目の合う野良猫と罵倒、私のためな気がして

産まれても孵らぬ卵を温めるどうして心なんかがあるのか

眠れずに羊数える七匹目あなたは眠れているのだろうね

2016年12月2日金曜日

2016年10月の短歌(1) 祖先の努力

満月はマリービスケットのお味新月のたび君に吐く嘘

欲しい物要らない物を書き上げて全部あんたで上書きをする

音楽のドレミファソラシド例えばさ声を分類しないで今は

陸上で息ができない気がしてて祖先の努力恨んでみたり

悲しさや苦しい細かい感情は誰も開けない冷蔵庫の中

うつくしい露悪と醜いたしなみと私が選べたあらゆることを

全・肯定、私あたしに我輩に第三者的期待をかける

怖いの、と怯えた目をして見る魚、あるいは神と誤ってた日

動脈の上に匂いを積み重ね畜生なりのおめかしをする

炭酸の抜け切るコーラ片腕に耐えられぬ重さだれかの呼吸

バラバラのわたしきちんと纏まった私まだまだ親指しゃぶる

酔い口に言葉の価値を知るからに絶対言えないただ一言が

長袖の長さが足りず笑い合うそういう風に生きあえている

2016年11月18日金曜日

2016年9月の短歌(2) 嗚呼あゝ恋とか

軽率に箱を開けては老いていくそういう種類の依存性だよ

約束はしない守れず飲み込んだ嘘の尖りは肋骨を刺す

半熟の目玉焼きなら飽きているハードボイルド生きてみたいし

悪い夢見ては忘れる彼岸にて震える指を千切りたくなる

貪欲になれたらいいさ甘栗の皮を剥くほど禿げるマニキュア

不器用と名前を付けて分けるだけヒト科ヒト族さびしがり属

水槽の金魚が溺れているところ見てみたいよねあたしは見たい

締め過ぎて鬱血してる指の先ほんとにいきることとはすてき

ひどいこと考えるとき木蓮の厚い花弁を裂いてしまえば

快、不快、誰かを呼んだ名前なら慈しみとかをまぶしてあげる

お祭りの派手な行列避け歩く日差しは誰にも等しく白い

喉奥で言葉を銃に変えたらねカルピスの海で溺死をしたい

休みなく夜の憂鬱積み上げてパンケーキみたくふわふわ重く

長すぎるスカート裾は膝隠す嗚呼あゝ恋とかどうするのだか

これまでの不謹慎から想像し信用ならない爪先の向き

2016年11月11日金曜日

2016年9月の短歌(1) 冷凍ピザを溶かす理由

二人だけで通じる名前で呼び合ってお墓の中で交わす約束

夜に降る希望は鈍く輝いて私を明日に生かしたりする

きれいだと汚れた手で言うごめんねと天秤にかけ残るさびしさ

軽薄なひまわり黄色目を焼いて知らぬ誰かの思い出語る

水色のエナメルの爪夜光る両生類になれるつもりで

千一夜数えて眠る例えとか冗談だらけに過ぎる宴会

悪い方悪い方へと蛇は行くここより良いならどこへでも行く

つらいとか淋しいとかをささやいてバターコーヒー浮かぶ満月

強すぎる気持ちはたぶん恋じゃない煮立ったジャムの果実を潰す

舌の上慣らす軟膏罪悪の炎症に効く白い苦味よ

鳥として生まれさえずる籠の中ねがえば竜になれたとしても

夜きゅうに急にさびしくなっちまう冷凍ピザを溶かす理由は

不用意な発言をして嫌われる準備はいいかさあ始めよう

真夜中の布団の中で考えるどうして迷子になっているのか

道に吐く唾は汚く飛び散った冬は間も無く誰にでも来る

埋めるのが空腹なのか空虚かも分からないまま迎える夜明け

2016年11月4日金曜日

題「曜日」 歌会たかまがはら9月号

歌会たかまがはらさんで、2016年9月「曜日」というお題で
短歌募集をされていました。

気になった短歌をご紹介。

木曜の夜に生理を終わらせて えらいでしょ、ってビールをなめる
(腋の下舐め子ちゃんさん)

きみは鯵ぼくは鮫だと言う子らが泳いで渡る葉月水曜
(文車 雨さん)

全体が薄暗いのも寒いのもすべては今日が土曜だからだ
(Y川さん)

生物だから気候体調あらゆる事象に精神は影響するはずだけれど、
近代の持ち出した曜日って概念により一喜一憂するの滑稽。
個人によって色んな意味があって、想像が膨らみ過ぎる。

自分は下記を投稿。番組内採用ありがとうございました。
どうでも良い事ですが、私は甘いケーキが好きではありません。

金曜日にくいつらいが連なって甘くて重いケーキになるよ

例えばの話をしては滑り行く淡い輪郭曜日のすきま

日曜の廃品回収甘い声どうかわたしを連れてってくれ

世の中の日曜の夜の死にたさを濃縮還元ジュースにしちゃえ

永遠を願え十三月が来て銀曜日には王様になる

日曜の朝から開ける白ワイン何ならみんな幸せになれ

個包装六片チーズのいずれかに仲間に入れてほしい週末

2016年10月28日金曜日

雑記 リバーシブルリバース

※暗い。

ユミちゃんが亡くなった。

ユミちゃんは田舎の裕福な本家の子供である。
幼い頃、本家に行けば、ユミちゃんのおさがりが貰えるし、
おやつはあるし、あったかいし、動物がいるし、ユミちゃんと遊べる。
男系一族の中で、少女はユミちゃんと私しかいなかった。

成長して雑誌を読むようになり、色んな服やブランド名を知った。
ユミちゃんは変わらず色んな服をくれる。ショップバッグに入れて。
私の修学旅行の時は、ブランドのリュックを貸してくれた。

ユミちゃんはしっかり者、美人で社交的で頭も良く
小さい頃から夢を持ち、学校卒業後も夢を目指して勉強していた。
親戚の中ではユミちゃんが主役で、水準だった。

私が都心で総合職として働き出した折、ユミちゃんの結婚を知った。
ずっと目指していた職業は諦めて、婿をとって主婦になったらしい。
本家の家長は金喰い虫が片付いた、と嬉しそうに笑っていたそうだ。
その内、ユミちゃんが子供を出産したと聞いた。

教育ローン返済の目途がたって生活に余裕が出来た頃、
ユミちゃんの危篤連絡があり、その三日後に亡くなってしまった。

通夜の大きな会場に興奮して、ユミちゃんの子供は走り回っていた。
200人くらい来ていた弔問客は、皆が泣いていた。
死化粧の口紅は汚いオレンジで全く合っていなかった。
葬儀に出るのは仕事を理由に断った。

一時間に一本しかない帰りの新幹線を待ち、
駅で煙草を吸ってたら、喪服を灰で汚してしまった。
代わりに私が死ねばよかったのに、なんて事を思った。

2016年10月21日金曜日

2016年8月の短歌(3) 光るレタスと魚

望むらくはダリル・ハンナの美しい前転倒立回転飛びに

壊しても尽くしてもなおまだ足りぬにんげん一人幸せになる

LED電球だらけの街なかで夜は絶滅したのかも、ねえ

狂うほど頭の良すぎる友達と見上げた空に落ちていく月

ペパミント茶葉はまずくて匂い立ち吐き気どころか思考を止める

きっと今思ってるような底よりも深いところにいるやも知れぬ

手を引いて連れてく菜の花畑にも暗い土色消えない自損

えげつない角度で曲がる月を見る私はここで笑ってやってる

強欲を押し付けて愛と呼称するそんなものなら一生いらない

あわよくば甘い死、よしんば怠惰の腐乱にて、高層ビルの上に赤い灯

真夜中のスーパーマーケットへ行こう光るレタスと魚を見よう

2016年10月14日金曜日

テーマ「恋」 うたらば第100回

たらばさんで、「恋」というテーマで短歌募集をされていました。
開催100回なんですね、おめでとうございます。
多忙ながら継続する運営者の方、尊敬の念しかないです。
さて、採用歌で気になったものをご紹介。

ラブレターびりびり裂いてあたまから明るいだけの雨降らせたい
(黒井いづみさん)

ひまわりが光に向かって咲くならばわたしはきみに向かって咲きたい
(九条はじめさん)

真四角の窓からあなたが見えたとき喫煙室が聖域となる
(稲垣三鷹さん)

恋をしている状態って、一種の精神疾患罹患状態と聞いた事がある。
真偽は知りませんけれど。
両想いよりも片思いって、醜い癖に美しいから手に負えない。


自分は下記を投稿。かわいい恋がしたいですね(棒)

与えるは愛で欲しいは恋という壊したいのは何だというの

夏が来て気が狂うような夏が来てまた気が狂うような恋をするのだ

欲望の強いばかりが超過して君をいつしか潰すのだろう

人のいない油のような海にいて溺れてしまいたいだけの恋

さよならや別れようとかその口で言っても多分甘く聞こえる

手に持った花は大体干からびるそういう求め方しか知らない

2016年10月7日金曜日

2016年8月の短歌(2) フィッシュフライカレー

箱詰めになって気持ちよ左様ならどうなればいいか知らぬ夕顔

ラジオから二局の隙間ノイズだけ流れて消えて黄色く歪む

許可制で得ているような怒りとか吐き気そのまま南を目指す

誰にでもばれそうな嘘へたくそにリストカットは瀉血の一種

がちがちの向上心を持たぬから赤信号機の麓で待つよ

とてもとてもとてものついた悪趣味で炭酸水に好意は溶けた

何がしか溺れるような夢を見て叫べば全部台無しになる

痛い時生きてる愛を受けている錯覚できる鈍った頭

自分とは違う形をしているか肩甲骨の向く上の先

見送りの姿かたちは美しく喫煙者たちは赤目を晒す

人格者だらけの部屋の壁壊し澱みを全部流してしまえ

午前2時ココイチフィッシュフライカレーあらゆるものが私に優しい

2016年9月30日金曜日

2016年8月の短歌(1) タッパーの数

葬列の影は長くて踏み出せずやたらうるさい蝉の鳴き声

憧れは着たきり雀の切望で永遠であるさよならパルコ

ベランダで干からびて死ぬ蝉のごと一所懸命愛をばら撒け

劣るのはどこにでもある感情で好意はとても醜い、きっと

冷蔵庫内タッパーの数増やし強制的な日常を追う

週末にひとつ花束買うように心ざらつき撫でる深切

道に咲く花々吐瀉物たかる鳩わたしの願いは生きていくこと

一つ嘘吐いたら残りは真実とゲーム思考で過ぎてく惰性

底にある蛙帝国茹で上げて立派な私を褒めてください

ベランダにカーテン干して寝転んで出来れば猫を愛でていたい日

うちに来てグラタン作ってくれるなら好きと言わずに終わってもいい

生きてても捨てたいものが多過ぎる世界に占める僕の割合

2016年9月23日金曜日

雑記 どうしたら私は無知を許さずに済ませるだろう

2016年9月初頭、ごく一部の短歌作者界隈で起きた問題?
につき、あまりにも無知すぎて自分を呪いたくなったので
理解メモと、思った事の雑記。

web検索した著作権印税について以下理解のまとめ。

wikipediaから自分の解釈なので曲解していると思います。
詳細の確認は、ちゃんと法律の原典に当たってください。

■著作物は、作者の感情・思想が表現されたもの。
短歌はこれ。著作者は短歌作者に該当。

■(参考)複製権
コピーする権利。 引用元非記載メディアはアウトかと、うん。

■印税
著作物の利用者(出版社)が、著作物(短歌作品)を
利用するのに、著作者(短歌作者)に支払うお金。
書籍出版物は、
「定価×印刷部数(若しくは実売部数)×一定割合」
の印税が出版社から著者に支払われる。

以下は個人的に思ったこと。

出版物の増刷に次ぐ増刷、企画は大当たりなだけに、原因を邪推。
出版社発信の文面は、誠意ある対応をしている、と感じましたが
著作者の指摘が仮になかったら、どうなっていたのでしょうか。
 
自分には今回以降、無関係になると想定してますが、
いろんな人に見てもらえて嬉しい、と好意的な気持ちに依存し、
声を上げられない作者の不利益にならない事を祈ります。

関連してコピーメディアの転用、印税支払いの方法、
クリエイティブコモンズのことなど語ると、無知ゆえに
長文かつ過激になりそうなので控えておきます。

2016年9月16日金曜日

テーマ「スポーツ」 うたらば第99回

たらばさんで、「スポーツ」というテーマで
短歌募集をされていました。採用歌で気になったものをご紹介。

「位置について」の「位置に」がどこかわからない なのにピストル鳴って人生
(西村曜さん)

とおつひとマツダスタジアム沸きたれば人間の血は広島のいろ
(牛隆佑さん)

血沸き肉躍る体育の祭典がブラジルであったらしいですが
冬季五輪の方が好きなんですよね、見てて楽しめる競技が多いから。
夏のスポーツは過去の苦行(水飲んではいけない世代)を
思い出してつらくなる。

今回はスポーツを楽しむリア充短歌なんでしょ?と思ったら
なんとまあ、すごい。人生そのものがスポーツである。
広島カープ、25年ぶりの優勝おめでとうございます。

自分は下記を投稿。

水色のプール塩素の匂いして見えぬ太陽あなたを想う

美男美女しか恋なんて許されぬ誤解を解いて走れダーリン

十五歳極度にしなる右腕の放物線はセンターを越え

2016年9月9日金曜日

2016年7月の短歌(3) 蛾でもいい

月並みな不幸にいっとう憧れて薄いカルピス飲み干せば夏

左手の中指第二関節の手前の深さきみの口蓋

責任を果たせないから望めない安い不幸に慣れすぎている

来世でも名前を呼んでもらえれば例えば蛾でもいいとは思う

舌先で溶けてく安い頭痛薬やさしいなんて容易じゃないよ

優しさを剥製にして手に取って無残な日々を撫で回してる

色のある雨降る景色どこにでも水の匂いは静かに甘い

最悪のシナリオだけを考えて過ぎてく夏を羨んでいる

苦しいと飲みたい薬は別々でプラスチックのぞんざいな味

2016年8月26日金曜日

2016年7月の短歌(2) デビルズフードケーキ

知らぬ町道に迷って会う猫がなぜか全員白黒模様

重たさは甘くて頭の悪い味デビルズフードケーキのように

箱入りのレモンを買って皮を剥くそういう日々を愛せよ人め

強すぎるヒーローみたいな人になる子供の夢は途方に暮れる

アメスピと第二関節急き立てて知らない種類の夏を待ってる

人のいない油のような海にいて溺れてしまいたいだけの恋

惨めって舌噛む余生日々の泡多くを望めば壊れゆくこと

かさぶたを剥いで噴き出す新鮮な血液然としていてことば

饐えている揺らぐ自分の成れの果て誰かのものになれないのかと

正しさを羨んでいるあと少し欲しがり屋なら得られていたか

2016年8月19日金曜日

2016年7月の短歌(1) ラブラブキッス

淋しいは毒なんだろう君だけの為に残したメモ書きのごとく

日曜の朝から開ける白ワイン何ならみんな幸せになれ

皺のない脳味噌、平和、守護聖人、週末だけの人間ぐらし

諦めて走る雨降りコンクリの道の行く先煙って不明

溶けかけのかき氷、青、見捨てるのどうにもならない夏と夜たち

メリーメリーバッドエンドであろうともキスで帳尻合わせりゃ良いさ

最後にはラブラブキッスで締めるよな予定調和をこよなく愛す

価値のある人は肯定唆し私はただのゴミだと思う

約束はある種の呪い、自覚して忘れないでね、なんて言う奴

2016年8月12日金曜日

題「死」 歌会たかまがはら7月号

歌会たかまがはらさんで、2016年7月「死」というお題で
短歌募集をされていました。

気になった短歌をご紹介。

幸不幸いくつも波は過ぎてゆき心電図にいま訪れる凪
(西村湯呑さん)

ぼくは死ぬきみだって死ぬみんな死ぬもうすぐぼくの娘が生まれる
(エースさん)

重たい題だなあ、と思ってましたが、すべての短歌の中に
その方ならではの死のイメージが喚起されて、
採用歌だけで一つの歌集ができるくらいのインパクトでした。
一言、もう、素晴らしいので、是非リンク先のすべての短歌を見て頂きたい。


自分は下記を投稿。採用歌と比べると腑抜けているとしか。

多分もう100年後には死んでるし分かってるけど今は泣かない

安らかな気持ちで死にたい安らかな気持ちで毎日生きてもみたい

明らかに不幸になれる例として君の代わりに死ねそうなこと

わたしより先に死なない約束をしてよ嘘でもついてていてよ

晴天の下に震える万国旗きょうは死ぬのにもってこいの日

2016年7月29日金曜日

2016年6月の短歌(2) 餡の残虐


走ってもどうにもならない夜だから乱視で探すこぐまの星座

鯛焼きを一匹二匹と数え上げ腹を膨らす餡の残虐

背中押す優しさなんて持ってない蹴飛ばすだけの乱暴がある

つむじから髄液が出て気化をして竜になったら叫べばいいよ

錆びついた金属製の階段はう、み、は、ひ、ろ、い、な、奏でてみたり

耳鳴りの高鳴る夜は胸も鳴り眺める過去の英雄譚よ

友情の地獄のような果てにいて一人終電逃してはいる

かけられる優しさのせいで露呈する汚いだけの指針とやらの

正しさが欲しくて欲しがるペパミントメンソール氷すべてを冷やす

奪い合い求めて与え私には死刑宣告みたいな言葉

1ミリも残されてない杯を振り眺める朧月の黄身色

2016年7月22日金曜日

2016年6月の短歌(1) オーシャンゼリゼ


さすらいの文字を眺めて撫でさするとうに、諦め、られた、生活

幼児期に知ってる種類の永遠を使い倒して迎える夜明け

名前のない神様みたいな生き物を心の中で飼って痛ぶる

さよならとおやすみなさいの間には語らずに足る何かがあって

一人だけ残されている駅にいてベンチの上の眼鏡と遊ぶ

幸せになっておくれよ花を背に負って流れるオーシャンゼリゼ

先を行く見目麗しき人たちは花の名前を言えやしないさ

欲しいもの全部だぜんぶ全てだと呪文のように括る後悔

確認をするみたいなのそういうの私は私で余白じゃあない

晴れた日の乾いた和音広がって布団を叩く演奏者たち

靴さえも履かず出された夜の星むかしむかしの物の語り部

ああ実にげにかわいそうな夜である砂糖壺の中閉じ込めている

2016年7月8日金曜日

題「大人」 歌会たかまがはら6月号

歌会たかまがはらさんで、2016年6月「大人」というお題で
短歌募集をされていました。
気になった短歌をご紹介。

大人ほど大人気なくて「りんご狩り」「倫理」「リハビリ」「琉球絣」
(西村曜さん)

「ジンセイハオマツリ」と馬に名を付けた人の気持ちがわかって大人
(松木 秀さん)

同僚は宇宙人だと思ってる挨拶しても返ってこない
(なるなるさん)

子供時代の遊戯、少年期との別れ、仕事場での風景、
人生百景、いろんな大人モチーフが溢れてて、
全部気になる短歌なんですけども。
言葉や価値観を沢山持っていても、本来の大人というのはまだ遠い。


自分は下記を投稿。大人=お酒飲めるぜ、だよね。

焦げる肌鉄板の上大人たち何も知らないただ夏がある

大人でも糞とか言うのこれはただ今更ながらの反抗期です

迷うほど強い何かは持ってないただわがままな大きな子供

ぐちゃぐちゃになってやろうと飲み過ぎてうるさいだけの帰巣本能

寒いから淋しいからね弱いから酒を飲んでは無理やり眠る

語り合う夢の温度が違うだけ受ける追い風強く、強くて

2016年7月1日金曜日

過去の短歌 野良にも

三月を四月にしても浅はかね女の凄みを死ぬほど味わえ

マスキングテープで作る境界線ここに立国せかいはひろい

ハッカ飴に桜の花の塩漬けと生木の匂い春の記憶に

焦げる肌鉄板の上大人たち何も知らないただ夏がある

暗闇で吠える野良にも属さずに昼間の中の道化であれよ

淋しさと孤独は違うと知っている沸かしたお湯は冷めていくだけ

夕食の鳥肝臓の匂い立つ斎場に行く蟻の行列

貝の砂吐かす小さい偽の海我が古里はあぶくとなりき

故郷など有る為に有る我が儘よ手も口も出ぬただ舌が出る

偶像が欠け嘆いてる人もいて青く光るは背骨の直線

2016年6月24日金曜日

2016年5月の短歌(2) 花捨てる宮廷


振れる手に謝罪を返すつつましく同じ惑星住んでる僕ら

春先に朽ちてしまった花捨てる宮廷みたいなごみ箱の中

過ぎた事ばかりで弱る善き人の心膜になりたいと思う日

面前で口角上げ過ぎ悪態をあいにく頭が可愛いもので

親指と人差し指をLにして足首からの一つ半分

猫の声、自販機の音、夜深く頭の中に自分が溢れ

聖歌隊列の後ろをついていくあなたは私じゃないのだろうし

たくさんの私の時間をあげるからあなたの時間を少しください

オムライス皿に盛り付け果報者どうにかこうにか感じる心

2016年6月17日金曜日

2016年5月の短歌(1) 巻尺の限度


誰からも振り返れない溝にいて雨は少しも溜まれやしない

夏が来て気が狂うような夏が来てまた気が狂うような恋をするのだ

なあ真昼過ぎたことなら美化をする汗に濡れてる白い開襟

後味の悪いすべてを噛み砕く赤い可愛いリンゴキャンディー

巻尺の限度を決めたその日からビッグフットは絶滅をした

絶対に壊れやしないと知ってるし私は君を好きなんかじゃない

今日もまた怖い顔した夜が来た女の笑い声か悲鳴か

息継ぎの出来ない場所に一人いる積み上げたままの本の塔たち

花嫁のヴェールみたいにきれいだと思う喫煙室の天井

永遠に並行になる線を引く好きになるたび歪ませてみる

2016年6月10日金曜日

2016年4月の短歌(2) 吠えてみてくれ


揺らぐなら私の方へ傾きなどうにもこうにも重たい頭

もし人が猫のごとくに柔らかく愛らしかったら憎むのだろう

与えるは愛で欲しいは恋という壊したいのは何だというの

花贈る人に知らせてくれないか食えないだけの気持ちを思う

淋しいの検索結果本日の孤独は割と上出来である

争いで滅んだ国の城に住む狼みたいに吠えてみてくれ

日が射して虹の色見る床の上ひとりでえづく自家中毒者

安らかな気持ちで死にたい安らかな気持ちで毎日生きてもみたい

天秤の片方だけが重たくて何処にもやれぬ気持ちばかりが

白日のもとに晒され幼児期はかわいそうなまま澱だけ残る

襟元は血ばかり赤の色は濃く意味なんて無く生きてていいか

2016年6月3日金曜日

テーマ「笑」 うたらば第94回

たらばさんで、「笑」というテーマで
短歌募集をされていました。採用歌で気になったものをご紹介。

笑点もやがては朽ちていくように永遠なんてないのだと知る
 (青木健一さん)

「絶対に笑ってはいけないのね」と真顔で年を越している母
(関根裕治さん)

日常生活の笑ではなく、双方テレビ番組、それも大好きな。
その中にある悲喜劇も含んでて、どうにも好きなお歌たち。

余談ですが、桂歌丸師匠は噺家として途方もなく
色気がありますよね。立ち居振る舞いも近くで見てみたい。


自分は下記を投稿。

誰にでも優しいんだと知っている馬鹿だと言うとそうねと笑う

ああこれは戦い方を知っている目だけで笑う悪い女だ

笑っててほしいと思う浅はかに水で作ったココアはまずく

2016年5月27日金曜日

2016年4月の短歌(1) ひまわりのように


絵に描いた幸福なんて吐き気して途方もなくも憧れている

真実を欲しがるときにくれないね嘘が欲しいときためらうくせに

撃鉄を起こせ我等を阻むもの蹴散らせ行けよ葉桜の道

蟻の巣に流す泥水うつくしく不幸自慢をさせてあげるね

スイッチを入れる押し込むかき回すどうでもいいことあなたも一緒

わたしより先に死なない約束をしてよ嘘でもついてていてよ

ひまわりのようにあなたを買いかぶる黄色い色の幸福なこと

街角は何て冷たさ灰色に心のどこかで安らいでいる

世の中のきらいきらいの連続で過去も未来も見えないままに

幕間にカーテンを引く勢いへ、どうかどうにか熱を冷まして

楽しくてぬるい熱持つ夢を見て検索窓に打ち込む縊殺

2016年5月13日金曜日

2016年3月の短歌(2) 脳内会議

太陽になり得るような人もいて際立つ影の美しいこと

酒注ぐ器はすべて欠けているこんな夜でも一人で迷子

想像のしやすい地獄を覚えとく脳内会議の窓際の場所

わかりやすく黄色い色の幸福を壊してみたくて塗りたくる黒

語り合う夢の温度が違うだけ受ける追い風強く、強くて

鳴るはずのない番号の着信音変え一人遊び上手に下手に

ピクニック行くことないけどでもきっと陽にサンドウィッチきれいでしょうね

そういうの報いと言って否定する赤い太陽眼裏焼いて

この度は妥協ばかりでごめんなさい多分絶対すっごく好きよ

ははおやはわたしのことをまもるけどわたしのちちをころしはしない

電源を落として触れる詰めた襟犠牲者づらを悼んであげる

憂鬱は甘い匂いを漂わせ油断してるとほら、食われるぞ

名を呼んでまぶたを伏せるその余白世界は今日も更新される

2016年5月6日金曜日

2016年3月の短歌(1) エログロナンセンス


茹でたのか炒りか焼きかですれ違う玉子サンドの決闘を待つ

生き方のまともじゃなさを思い知り茹で卵の殻きれいに剥けた

血の話骨肉のはなししてたっけあなたがたとの私の差分

側溝に立つ湯気淡く猫ぼかし冬が寒くて幸せだけど

醜聞のようにも映る好意ならホットケーキに名前を書くよ

感情も頭も全部痛いのは冬が終わって春がくるせい

どのくらいの人が許しているかしら殴りつけても殴られること

繰り返すきつい言葉の応酬が性行為じみて笑える夜だ

概念と戦いながら夜を往くみじめなほどに強い足音

目の回る展開エログロナンセンス大団円って言葉が好きよ

端々へ壊死した身体散らかしてどうか今日こそ生きてしやまん

あああもう土足厳禁だと言うの何回めなの私の心

最低って自称を振ってかしずく日たぶん続ける最低な日々

2016年4月22日金曜日

テーマ「地」 うたらば第92回

たらばさんで、「地」というテーマで
短歌募集をされていました。採用歌で気になったものをご紹介。

地下鉄はわたしひとりを食べこぼし暗闇のなか逃げ去っていく
(小嶋えにさん)

地下鉄の独特の感触って不穏でとてもいい。
だからこそ東京に来て何年も経つけど、いまだに、怖い。

自分は下記を投稿。

路地裏に捨てる昨日の葛藤は苦い唾液を過剰にさせた

人と猫、花とじょうろの間に立ってそういう愛も美しいから

手に持った花は大体干からびるそういう求め方しか知らない

2016年4月15日金曜日

過去の短歌 街宣車

猫背気味、文学少年撫でる背の箔押し古く呪いを乞う

性愛の対象として女落ち男震えて幕は降りたり

植え込みのパンジーの顔思慮見えず春はまだまだ先だというのに

中吊りの政経記事の裏側に少女団淫らに微笑むも

焼き蕎麦に玉子をおとすくらいの贅沢を許し本日は雪

新しい礎に流れやわらかくコンクリートの匂いは辛し

暖かな日にもうひとつ増す重さ無一物への憧れ尽きず

街宣車黒塗り光り打つ鼓動サンガツトオカは冷えて晴れたよ

虫籠を持ちて出でたる少年の残像青く眼底を焼く

「月が綺麗」「死んでも良いわ」と訳されて我が情動は醜く零れ

2016年4月8日金曜日

2016年2月の短歌(3) コブサラダ


欲望の強いばかりが超過して君をいつしか潰すのだろう

顔料の代わりに飾る花の色きみの代わりに飲んだ毒液

桃色の淋しがりたち消えていく芽吹く季節へ欲を孕んで

コブサラダガラス皿の上装って冷たいなんてあなたが言うか

見も知らぬだれかの沈む湖を自分の中に育てゆく春 #短詩の風

都合よく甘口カレーを作りなさい溶けて崩れた欲を煮立てて

真ん丸い何て月だよ悲しいね通りを幾つも間違えている

八百字詰めの原稿用紙より恋文よりも短い劣情

喧騒と光る街並み逃げ始め求愛だけをしている虫だ

刺すために研がれる刃物、柔らかく刺されるために鍛える心

運命は多肉植物然とした態度で水気多めで頼む

2016年4月1日金曜日

2016年2月の短歌(2) 姫と王子を


セックスをしよう童話の世界から姫と王子を亡き者にして

空っぽの重たい頭持ち上げて真正面から臨む激情

浅はかな私の世界の中心を誰かにしたいそんな週末

星の降る夜道に吼える虎なので皮肉を全て噛み切ってやる

選ばれぬように身動ぎ縮こまる砂ばかり噛む貝ですらない

平成ももはや三十路を待ちわびるノストラダムスの裏切り者め

飴玉のように名前を転がして虫歯になりそうどこもかしこも

好きだって肯定だけで許されて悪いこと全部否定するだけ

金網を撫でて傘先研ぎながら走る影すらにじむ後悔

春が来てむしる花びら綺麗でしょう重たいだけの依存のようで

眠れない星たちどうか落ちないで祈りは雨の太鼓に消える

2016年3月25日金曜日

テーマ「無」 うたらば第90回

たらばさんで、「無」というテーマで
短歌募集をされていました。採用歌で気になったものをご紹介。

無花果に首突っ込んで死ぬ蟻をうらやむような酒の飲み方
(外川菊絵さん)

何事もなかったような顔をしていつまでも手を洗い続ける
(えんどうけいこさん)

生活の中の綻びを、短歌って31文字で空気や過去まで
含ませて表現できるんですよ、すごくないですか。

自分は下記を投稿。
無、って漢字を使う単語で、一番好きなのは「無頼」です。
心に隠して抱えて生きていきたい。

便箋を何枚無駄にしたことか前略、あなたが恋しいのです

一生のうちまばたきで目を瞑るその数回を無限に愛す

オープンザドアーあんたが思うほど人生甘くは無いはずだから


2016年3月18日金曜日

題「オノマトペ」 歌会たかまがはら2月号

歌会たかまがはらさんで、2016年2月「オノマトペ」というお題で
短歌募集をされていました。
気になった短歌をご紹介。

ふわふわと呼べなくなった物体と別れる次のふわふわを買う
(姉野もねさん)

新しいふわふわと寝る少しだけ前いたふわふわを思い出す
(姉野もねさん)

猫、ぬいぐるみ、または人間の女かも、心にいる何かなのかもしれない。
これオノマトペでしか表現できない!と素直にびっくりして、
同時に非常に淋しくなれたお歌たちです。
入沢康夫の「キラキラヒカル」という詩をちょっと思い出しました。

オノマトペについて詳細はWikipediaあたりを見て頂きたいです。
こんなに生活に染み付いてるのに、だいたいが会話や口語でしか
聞かれないのは、面白いですよね。

自分は下記を投稿。
考えてるうちにオノマトペのゲシュタルト崩壊を起こしました。

石けんの泡ふわふわに手を洗うまともに生きる自覚がほしい

はらはらと歌うようにも溢れ落つ花びらのごと溶けていくきみ

不穏のふ不可逆圧縮吹雪のふファーストキッスうふふふふふふ

あらゆると弛むゆるゆる流れ出す許す赦さず燃る夕鶴

後悔を(ポクポクチーン)する事に(ポクポクチーン)慣れてはいない

ぬけぬけと月が綺麗だなんて言う他意はないのを知っているけど

制度的予告抑制支配欲世俗に塗れ歌え聖歌を

ふあふあのクリーム添えたパンケーキ女子なら好きって言っちゃう暴力

鉄塔をくるくる回る子供たち死は緩慢な光るたてがみ

2016年3月11日金曜日

2016年2月の短歌(1) カリカリベーコン


湿り気の強い夜越え朝が来るカリカリベーコン玉子を添えて

口に出すだけの事柄まだら柄わたしの孤独はわたしのものだ

罪悪のにおいをつけて走り出す止まる即ち老いる、否々

自惚れを許してほしい少しくらい弱さを見せる人を見つけて

人と猫、花とじょうろの間に立ってそういう愛も美しいから

ささやかに命いのちの連続へ小さい口で応じる強さ

鳥小屋の孔雀は眠る嵐の日ゆたり虹色羽根を刻んで

鮮やかな終わりを見せて消えていく淋しいなんて嘘つく花火

ゆすらうめあぶく菜の花紅の花孤独な理由を数えるかわり

何かしら嘘をつかなきゃ止まれない街灯に沿う回遊魚たち

晴天の下に震える万国旗きょうは死ぬのにもってこいの日

夜遅く仕事のことを考えてレンジの中でポップコーンは

2016年2月26日金曜日

2016年1月の短歌(3) デルモンテトマトジュース



病的に目出度い頭で考えるただひと匙の不仕合せごと

心身の健康なほど凪いだ空なんであなたが泣くのだろうか

数値化のできないことで責められるあの日あの時何故キスしたか

与えられ慣れ過ぎている腕を編み勝者と敗者のお話をして

脆弱を言葉にすれば壁になり強い自分を崩してくだけ

葡萄酒で俄かの暖を取るようにお仕舞いでしょう我等このまま

どうなってもいいような夜、冬の町、傷が出来ては、治らずに、雪

キスをして君が毎日痛がった虫歯移ってしまえばいいよ

デルモンテトマトジュースで作ることレシピ通りの媚びた血液

次の日もその次の日もその次も死んだ目をして我等は笑う

ただ単に記号化されて食べられて消費されてくおんなのこ達

2016年2月19日金曜日

2016年1月の短歌(2) 保証人欄


チョコチップクッキーまみれ指の味発狂思考に足りない刺激

魂の重さの分のキャラメルを頬張りながら雪道を行く

言い訳を100パターンは用意して正しさをまだ信じていたい

なけなしの卑屈抱えて時を乞う露悪するほど愛しく思え

飲み込んだ言葉胃の腑を焼いていく甘苦しいだけ熱を絶てない

誠実で時々頭が悪いとこ全部合わせて好きだったんだ

何もかも暴力的に押し流しいっそ奈落へ落ちて行こうか

寄る辺ない保証人欄空きのまま角砂糖ただ溶けていくのみ

情交を果たさぬうちに流されるかつて一部であった青い血

痛みまで愛せと記憶は語らって音階みたいな叫びを上げる

嘆けとて余白の目立つ書類たち紙飛行機にし消えてしまえよ

想像の見えない海に潜りこむ世界にたった一人の呼吸

2016年2月12日金曜日

2016年1月の短歌(1) 祥月命日


明らかに不幸になれる例として君の代わりに死ねそうなこと

今すぐに死んだら悲しい人もいて祥月命日選ぶやましさ

行けばいい酒と詩集を詰め込んで雪しか見えぬ電車に乗って

傷だとか跡を残してあげたくてひらひら揺れる首の三角

牛乳に睡眠薬の砂糖入れ淋しい夢に飢えきる前に

潰し合うヨソのお家の死因たち干し餅にでもして食っちまえ

逃げ場だけ残して触れるこれ以上知ったら離れられなくなるし

安物の封筒開けてぐちゃぐちゃに一枚余分の便箋壊す

最後まで嘘つきでいて地獄でも天国だって言っちゃっていて

まだ白い産毛の光る背を向ける肩甲骨に見えない翼

週末はこれから好きになる人を探せるように自分を探す

2016年2月5日金曜日

題「元カレ/元カノ」 歌会たかまがはら1月号

歌会たかまがはらさんで、2016年1月「元カレ/元カノ」というお題で
短歌募集をされていました。
気になった短歌をご紹介。

海行こうって決めたまま付き合って三年経っても行かなかったな
(荻森美帆さん)

鍵閉める音までやさしく出てゆけばもう戻らないひとを待つ春
(太田宣子さん)

汚くてもどうしても別れを美化しがちなんですが、
純粋に歌としての美しさにひかれました。
ため息のような声がもれてしまうような、もう消化しきった別れ。

自分は下記を投稿。珍しくちゃんと作りました。で不採用。無様。

追いすがるだけの熱量持てなくて人混み紛れさらばこいびと

半年後、否、三ヶ月、次週には君の目尻を忘れるでしょう

返される合鍵溶解炉に沈めターミネーターみたいに沈め

思い出は何かひとつも壊れたら全部崩れてジェンガみたいだ

断りもなく吐く息は上がってくごめんね好きになってしまって

独り占めしたい気持ちはあったのか好きだったのか果たしてそれは

2016年1月29日金曜日

2015年12月の短歌(2) カブトガニ


形良い口から覗く歯は白く好意はきっと食われてしまう

カブトガニは血の半分を無くしても生きてる深夜そういう話

本当は許してほしいわけじゃない憎んでででも忘れないでて

香水の甘い匂いを選べずにバニラ風味の煙草をふかす

出窓から逃げ出すような星々と子供だましの茶番を踊る

淋しさにバランスは無く壊れてく不協和音はラム酒の香り

感情をきれいな箱に詰め込んで箱根細工の秘密をかける

にゃあと鳴きにゃあと返せば私たち日なたの中の毛玉になれる

空を飛ぶ鯨になって雲を食う尾鰭に添える現実のあと

雨の日に一匹金魚光っててつがう誰ともすれ違えない

吐き出せば汚物扱いされていく綺麗であったはずの感情

どんなにか汚れて壊れていたとして折れぬと言えば折れぬ心に

2016年1月15日金曜日

2015年12月の短歌(1) 犬の幽霊


永遠を願え十三月が来て銀曜日には王様になる

外は雪、台所ではポトフ煮て泣きたくなるほど幸せでして

甘だるい生活感のない部屋で何も生まない火種を揺らし

寒いから淋しいからね弱いから酒を飲んでは無理やり眠る

冬が来てみんな冷たく壊れてる犬の幽霊ガラスのコップ

息を吸うように嘘つく人といて愛情なんて教えてもらう

やわらかい髪も心もないままに着飾るだけの貪欲の果て

愛情が深いからゆえよく焼いてお前の事を食ってしまうよ

晒される首は陶器の冷たさで冬と理屈を通したりする

エンドレスサマーだここに犬がいて舌を出しては蒸す劣情

真夜中にわかってしまうことだらけ走る誰かの響く靴音

漉き込んだ皮膚と感覚違うから猫舌なみにとがる腱あり


2016年1月8日金曜日

題詠blog2015の事(10)

091:略
便箋を何枚無駄にしたことか前略、あなたが恋しいのです

092:徴
目が腐るほどに平和の象徴は白鳩たちの糞にまみれて

093:わざわざ
おかしいよわざわざ君のそばにいて頼られるのは他の誰かで

094:腹
本当にあったことかも分からない蛇腹のような記憶喪失

095:申
せっかくの機会なんだが物申す母さんそれはリモコンじゃない

096:賢
賢くて楽しく生きて死んでいくヒト科ヒト目ひとり尊く

097:騙
まだ平気まだ頑張れるまだ好きだ騙し騙しに壊れる心

098:独
そのむかし膝上に座す神としてやわい猫たち孤独を埋めた

099:聴
幻聴はスペースソルジャー連れてきて止まない耳鳴り癒したりする

100:願
願わくば雪の降る中一人きり誰も知らずに静かに死ぬの


作り終わったのは2015年内ですもの。

2016年1月1日金曜日

題詠blog2015の事(9)

081:付
黄緑の付け入る隙を与えてるこんなに冷えてさみしい画帳

082:佳
キャラメルの包みを解いて口入れて風味絶佳な夜にしようか

083:憎
いくらでも溢れる怒り憎しみでたぶんいのちは輝いている

084:錦
どす黒い川面に泳ぐ錦鯉まるで切りたて動脈の散る

085:化石
美しい化石になって逞しい手が掘り返す糞袋あり

086:珠
戦いは鋭くそして馬鹿らしく真珠輝くガールズトーク

087:当
当然にとなりにいると思いたくそういう種類のお薬を飲む

088:炭
心ならとっくの昔に壊れてる瀝青炭のうつくしい黒

089:マーク
テレマーク姿勢を取って着地する抱き上げられることもないのに

090:山
可愛くて音痴なリスのいる山を心の中でたくさん登る